東京高等裁判所 昭和26年(う)2015号 判決
第一点、しかし記録によつて原審各公判調書を検討してみると原審は第一回公判乃至第四回公判期日に亘つて、本件罪体並びに被告人が本件犯行をなしたものであることの情況証拠について必要にして充分なる程度に被告人の自白以外の証拠の取調を終了した後第五回以後の公判において所論被告人の供述調書の取調をしておること明白である。従つて所論被告人の供述調書の取調を第五回以後の公判において為したことは毫も刑訴法第三〇一条に違反するものでない。
蓋し右第三〇一条の法意はなるべく裁判所に対し事件について予断を抱かしめないために外ならないから同条に所謂犯罪事実に関する他の証拠というのは被告人の所謂自白に関するものを除く他の全証拠の意味ではなく起訴にかかる公訴事実の罪体に関する証拠を意味するもので、当該犯罪の成立を阻却する事由被告人のアリバイその他これに類する事実に関する証拠などは含まないと解するのが相当である。殊に所論証人飯田作二高林光雄等の証人調等については被告人が本件犯行を否認するから検察官は警察における被告人の所謂自白調書を証拠として提出する必要があるが、それには先ず該調書が刑訴法第三二二条所定の条件を満足させるものでなければならぬ。所論証拠調はこの条件の有無に関するものもあるのであるから、前掲のとおり犯罪成立に関する罪体や情況に関する証拠が既に提出せられた後に所論のような証拠調が行われても、これを目して同法第三〇一条に違背するものとは認められない。論旨は理由がない。